医療事故調査 指針巡り意見に隔たり(2月25日・NHK ニュース)

NHKニュース報道より

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150225/k10015743911000.html (動画付)

医療事故の再発防止を目的に事故の原因を医療機関だけでなく、第三者機関が調べる新たな制度の指針の素案が厚生労働省の検討会に示されました。 素案では調査の対象となる事故については医療機関が判断するなどとしていますが、情報の開示を求める遺族と、事故の調査によって医療現場の萎縮を懸念する一部の医師などとの間で意見の隔たりが埋まらず、議論はまとまりませんでした。

ことし10月に始まる新たな制度では患者が死亡する医療事故が起きた際、医療機関はみずから原因を調査することと、新たに設置される第三者機関への報告を義務づけられています。 遺族は調査結果に納得できなければ第三者機関に独自の調査を行うよう依頼することができます。 25日は医師や弁護士それに医療事故の遺族などで作る検討会が開かれ、新たな制度の運用指針の素案が示されました。 この中では調査の対象となる「死亡を予期しなかった事故」については、治療中などに死亡する危険性を患者に事前に説明したり、カルテに記載していたりすれば、対象から除くなど調査の範囲は医療機関が判断するとしています。 また遺族側が、難しい医療の専門用語を理解するためにも文書で受け取ることを求めていた調査結果は「口頭、または書面もしくはその双方で遺族が納得するかたちで説明する」としています。 素案について、一部の医師などが過度な調査によって医師の責任が追及されるなど医療現場が萎縮する懸念があると主張したのに対し、遺族側は全体的に制度の運用を医療機関の判断に委ねる内容で納得できないと主張し、両者の間で意見の隔たりは埋まらず議論はまとまりませんでした。 検討会は今後、座長が意見を調整し、まとまらなければ再度検討会を開き議論を続けることにしています。

新たに設置される第三者機関とは

医療事故の再発防止を目的とした新たな制度では病院や診療所、それに助産所で患者や赤ちゃんが死亡する事故が起きた際、医療機関は新たに設置される第三者機関=「医療事故調査・支援センター」に報告するとともに、みずから原因を調査することが義務づけられます。 調査の対象となるのは「死亡を予期しなかった事故」です。 医療機関は調査結果を第三者機関に報告するとともに遺族にも説明します。 この調査結果に遺族が納得できない場合は第三者機関に独自の調査を依頼することができます。 医師などで構成される第三者機関は、各地の医療団体と連携して調査に出向きます。

調査対象の事故の範囲など焦点に

検討会で主に議論となったのは調査の対象となる医療事故の範囲や調査結果の説明方法です。 遺族側が医療事故の再発防止につなげるにはあらゆる事故の調査を徹底し、情報を文書で開示するすることが欠かせないと主張したのに対し、一部の医師などは調査によって医師の責任が追及されるなど医療現場が萎縮する懸念があると主張しました。 遺族側も医師側も新たな制度を設けること自体に異論はないものの、両者の間で意見の隔たりは埋まりませんでした。

新制度願う遺族は

医療事故で家族を亡くした遺族などは事故の原因を医療機関だけでなく第三者機関が調べる新たな制度の創設を長年、求めてきました。 その1人、千葉県浦安市に住む永井裕之さん(74)は16年前、医療事故で妻の悦子さん(当時58)を亡くしました。 リューマチの治療で入院した病院で、点滴中に誤って消毒液が投与されたことが原因でした。 しかし、病院は当初永井さんには「病死」と説明し、事故を隠しました。 看護師や医師らは刑事責任を問われ、永井さんも真相を求めて民事裁判を起こしました。 この医療事故は事故を隠蔽しようとする医療界の体質に厳しい目が注がれるきっかけの1つとなりました。 みずからの経験から永井さんは事故の原因を究明し、再発防止につなげるためには医療機関だけでなく第三者機関が調べる新たな制度が必要だと署名活動などを通じて訴えてきました。 新たな制度の運用について議論する検討会では永井さんは委員の1人として遺族の立場から「事故の再発防止のためには情報を隠すことなくオープンにし、遺族と医療側の信頼関係を築くことが必要だ」と繰り返し述べてきました。 永井さんは「個人を追及するというよりは、その事故から学んで再発防止につなげていくことが何よりも必要だ」と話しています。

医師「個人の責任追及され現場萎縮」

検討会で議論がまとまらなかったことについて医師側の委員で日本医療法人協会常務理事の小田原良治医師は「今回提出された素案の内容は評価できるもので、議論がまとまらなかったのは残念だ」と話しています。 そのうえで「医療現場としては今回出された案がギリギリの妥協点だ。説明のために文書を出せば裁判や捜査で個人の責任が追及されるおそれがあり、現場は萎縮してしまう。リスクの高い医療に現場が手を出せなくなると、いちばん迷惑を被るのは患者だ」と話しています。