医療事故調査制度の施行に係る意見書 (医療過誤原告の会)

医療事故調査制度の施行に係る検討会

座長 山本和彦 様

 

医療事故調査制度の施行に係る意見書

 2015年2月3日

医療過誤原告の会

会長 宮脇 正和

東京都東村山市多摩湖町1-22-2宮脇方

電話 090-6016-8423  Eメール info@genkoku.net

http://www.genkoku.net

医療過誤原告の会は、医療事故で重大な被害に遭い、医療機関に誠実な対応を受けられず、医療過誤裁判を検討ないし体験した被害者・遺族により1991年に設立されました。

医療事故の被害者が泣寝入りしなくてすむように、医療事故被害者の交流・支援、医療事故被害の精神的サポート、再発防止を目的として、被害者・遺族が会費を出し合い、長年にわたり様々な活動を続けてまいりました。(2015年1月1日現在 会員数272名)

重大な医療事故が発生して、医療機関が被害者に真摯な対応を行なわず、「にげる、かくす、ごまかす」対応に出た場合、被害者・遺族は、自ら医療事故を調査して原因を明らかにして、過誤が確認された場合、裁判でその責任を問い、医療機関に補償と再発防止を求めるしか方法がありませんでした。

しかし、医療について専門知識を持たない医療事故の被害者が、病院の外部から事故の証拠を保全して、事故原因を明らかにすることは、大きな困難が立ちはだかり、被害者の多くが泣寝入りとなっていました。 それでも協力者に恵まれ、数年かけて事故原因を究明できた被害者により、年間800件余の医療過誤裁判提訴に至っています。

泣き寝入りに追い込まれた被害者・遺族は、医療事故の悲痛な教訓が再発防止に生かされることなく、闇に葬られてきた無念の思いが医療不信となり、深い傷となって残りました。

私たち、医療事故被害者・遺族は、みずからの医療事故原因を究明するなかで、すべての医療事故被害が、次の医療事故を食い止める教訓として活かされる制度の設立を願い、その必要性を、国民、医療関係者、行政機関等に広げる運動を、長年にわたって進めてきました。 そして、真摯に医療事故に向かい合い、医療の安全・信頼向上に努力されてきた医療関係者をはじめ多くの方々のご尽力で、昨年6月に医療法が改正され、今年10月より、医療事故調査制度が施行となりました。

国会審議においては、医療事故調査制度が中立性、透明性、公正性及び専門性を確保して医療事故の原因究明及び再発防止を推進し、医療の質と安全性の向上に資する制度として運用され、社会に信頼される制度となるよう、適切なガイドライン策定に向けて、衆参の国会審議を経て、参議院厚生労働委員会で附帯決議が行われました。

昨年6月の法案可決直後に、本年10月から施行の医療事故調査制度ガイドライン策定にあたって、医療過誤原告の会は法案可決を重要な前進だと評価し、以下の5項目について要望を声明として発表しました。

 

今後のガイドライン策定の課題

1、    調査対象

医療事故調査の対象を病院の管理者が判断したものだけでなく、遺族や医療者にも届け出の窓口を設ける事。

2、    遺族との事実経過に関する情報共有

事故発生後すみやかにカルテのコピー等の医療機関側が持つ情報を全て遺族に提供した上で、遺族が記憶している事実経過を聞き取り、情報の共有をはかること。

3、    中立性・透明性・公平性の確保

院内事故調査、第三者機関の調査及び運営に、医療事故の被害者で医療事故再発防止に取り組む者、患者側弁護士等を入れる。

4、    全国的に均一で質の高い調査の実現

院内事故調査を支援する組織は、利益相反になりやすい都道府県単位ではなく、複数の都道府 県構成のブロック制とし、調査水準の均一性をはかる。

5、    費用の公的負担

遺族による申請を妨げることにならないよう、費用は公費負担とする。

この内容は、医療法改正に至る厚労省検討委員会のまとめと、衆参国会での審議と参議院厚生労働委員会の附帯決議の趣旨に沿ったものでした。

昨年11月から医療事故調査制度の施行に係る検討会が開催され、検討会の論議をつぶさに傍聴してきました。

参加されている構成員の意見の隔たりが多く、たびたび発言される数名の構成員の方のご意見の特徴は、合併症・予期可能範囲の拡大等により届出範囲の矮小化、事故調査を行う医療機関に調査方法を一任(公平性・透明性の欠如)、調査報告書作成義務をあいまいにして被害者へは口頭報告を許容、センター機関が事故報告を受けるだけの機能機関とする、等です。

これは、法案審議や附帯決議で確認された「医療事故調査制度が中立性、透明性、公正性及び専門性を確保して医療事故の原因究明及び再発防止を推進し、医療の質と安全性の向上に資する制度として運用され、社会に信頼される制度となるよう、適切なガイドライン策定」とかい離した主張であり、この様な意見が検討会でまとめられ、ガイドライン策定に反映されてしまう危惧を強くしています。

私たち医療事故被害者は、真摯に医療事故を教訓化して医療の質と安全、信頼性の向上を願い努力されてきた医療者と共に、国民の期待に応えるガイドラインに、検討会の議論をまとめていただきますよう、心からお願い申し上げます。